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author : 瑞希 ×
カァ─── カァ───

烏が空を舞う
空を黒く見せる理由は 暗雲だけではないはずだ
数えるのも億劫な程の黒い羽ばたき しかし空を飛ぶ烏はほんの数羽 其の殆どは地上に降り立っている
そう 地に集る烏たちよりも多いであろうか 此の 元は人として生を受けた者たちの 成れの果てを啄む為に

今 下界は戦国
小さな島国での合戦 しかし当人たちにとっては とてもとても大きな
跡地に此だけの死骸が倒れ臥しているのだ 其の規模は大体想像が付いた
導く魂の数も 其れとイコールで結ばれる
速やかに事を終了させるには 其れ相応の人数が必要な事も判るだろうに
内心毒づきながらも 其の任を漸く今し方終えたばかりの其の場から動きもせず 今も尚死体に群がる烏たちを見遣る


カァ─── カァ───


煩い

女は音もなく剣を引き抜くと 自らの上空高くに舞っていた一羽を肉片と化す
音を立て 其れは地に降り注ぎ
飛んだ生温かい血が 頬にかかるのを感じた
驚いた他の烏たちが一斉に何処かへと飛び立つ

「あら、ただ啼いてただけなのに殺されてしもぉた、怖いなァ」

抜いた刀をそのままに 左手からの声に視線だけ向ける

「機嫌悪いんかなァ?この人数の魂葬を押し付けた所為?それとも此処に転がるあまりの死骸の多さに嫌気が差したん?」

云いつつ 其れ迄見物していた岩から 此方に向かって歩み出す

「煩かっただけだ」

ピッ 血を払い鞘に戻した

「おぉ怖い怖い。ならボクが傍らで煩くしても、アレみたく殺されてまうんかな」

「私の気に触れようとしなければ良いだけの話だ」

「あ、それ性分やけん無理や」

人をからかうのが性分だと
しかもそのからかい方が そんな可愛いものではなく 人の傷跡を抉るなど とてもタチが悪い

「なら今、片しておいた方が今後の為か?」

「苛立っとるなァ、せめて事後にせぇへん?」

話ながら直ぐ傍まで寄ってきて おもむろに手を伸ばし 先程血を浴びた側とは反対の頬に触れた

「白いなァ肌、まるで血が流れてへんみたいに」

その手をわざわざ退かす気にもなれず フンと鼻を鳴らすだけ
それに気を良くしたのか ニッと口の端を上げ 頬に添えた手をゆっくり動かす
頬から耳

「冷たい肌やなァ、本当に血ィ通っとるん?」

顎から口

「唇も紫に近いし」

再度顎から首を伝って鎖骨

「けど、これだけ白いと、赤い血ィがよう目立つわ」

それまでされるがまま じっと相手の顔を見続けていたその目を 
スと閉じて フンと再び息を漏らす
今度は口元に笑みを浮かべて

「さっきも思ったんやけど、似合うな
 返り血」

先程と云うのは 相手が放棄した魂魄の分も合わせて まだまだ導きを待つ魂が此処に犇めきあっていた時の事
そんな状況を虚が見逃す理由もなく
魂葬をしながら 時折やって来る虚を昇華しなければならない
数を重ねていけば 多少血を被るのは必然で
手頃な岩に腰をかけてずっと見ていただけのこの男が その瞬間 密かに唾を呑み込んだのも知っている
しかし 時が経てば 鮮やかなその赤も黒く変色し 乾いて動く度にぱらぱらと剥がれて落ちていく

「けれど血は赤い方が綺麗だろう?」

ゾクッ その不敵な笑みに背筋を何かが走った
そして いつもは開かれる事のない その目を開いて 男も笑みを浮かべる

「あァ、黒より赤い方がボクは好みや」

云いながら 鎖骨で止まっていた指を先程に増してゆっくりと降下させる

「返り血はいつか乾くわ」

その言葉は何を意味する?
降りていく指は 拍子を取って絶えず刻まれる律動の上で停止した

「だからまた殺してくれたん?」

ボクにその姿を見せる為に

「あぁ自惚れとは何とも見苦しい」

眼を伏せて溜息と共に その言葉を吐き出した
しかしその笑みは未だに健在だ

「そこにお前の刃を突き立てれば、それはそれは鮮やかな赤が見られるだろうな」

指されたままの自らの胸を見ながら そう云ってやる
この男は どんな反応を返すだろうか

「あぁ、此処の心の臓を裂けば真っ赤で綺麗な花が咲くやろうね」

笑みを浮かべてそう云った
一見 無邪気のように見える その笑顔

「けどな それだと、この白い肌が見れんくなるから止めとくわ」

白い肌に適度に赤が載るから 綺麗に映えるんよ

云って 最後に スッと横に撫でてから やっとその手を肌から離した

「そうか残念だ、お気に召さなかったか」

肩をすくめて からかうようにその顔を見る

「やっぱりボクの為なん?」

「誰が」

風に靡く 切るのが面倒だと無為に伸ばした腰まである長い髪を掻き上げ 死体の中を歩き出す
腐敗臭に引き寄せられ いつの間にか戻ってきていた烏たちが 道を譲るのが妙に笑えてくるのは何故だろうか

「だから、な。これからも、」

声に足を止め 振り返る

「殺し続けてな」

それが一番綺麗だから

なんて残酷なお願いだこと
それはつまり 私に罪をこれからも重ねろと
殺して殺して 苦しめと
殺すと云う行為に 憂いを帯びた表情 そして赤い返り血を体に吸わせた
その姿が見たいが為に
それでも

「気が向いたら」

見せてあげる アナタが悦ぶのなら

汚れたアナタだから 血で汚れた私を「綺麗」と云うように

「あんたのその眼も、真っ赤で綺麗で、好きだよ
 ギン」

云うとアナタは その眼を見せずに笑ってこう云うの

「そら、おおきに」

そして、


「おまえも堕ちたなァ」







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author : 瑞希 ×
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